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データで確認!やまなし県産材の性能

スギとヒノキの性能はいかほど?

国産材であろうと輸入材であろうと、日々の現場で使用する木材の性能は誰しも気になるところです。やまなし県産材はどうでしょうか? ここ数年の間に、実際に使用された県産材のヤング係数を計測してみました。結果、スギもヒノキも安心して使える性能を有していると分かりました。

全国平均「E73.5」に対して、やまなし県産材は「E86」。非常に高い性能を有すると分かりました。

2013 年以降に山梨県内で建てられた住宅 28 棟、園舎 1 棟に使われたスギの梁1,266 本を調査しました。梁幅はほぼ 120㎜、梁せいはほぼ 120 ~ 210㎜、長さは 3 ~ 4 mが多く最大で 6 m。結果、E70 以上の材が 95.7% を占めました。「5%下限値」で見ると、やまなし県産材のスギの強度は E70 といえます。

2015 年に山梨県内で建てられた園舎 1 棟に使われたヒノキの梁 1,279 本を調査しました。調査対象の寸法はスギと同じ。E90 以上の材が 99.2% を占めています。「5% 下限値」で見ると、やまなし県産材のヒノキの強度は E90 といえます。

全国平均「E109.3」に対して、やまなし県産材は「E113.9」。ほぼ同等の性能を有すると分かりました。

ヤング係数と強度の関係は?
木材の性能試験にはいくつかの方法がありますが、多くの試験体から全体の傾向を把握したいときはヤング係数を計測します。ヤング係数以外の性能試験(圧縮、引張、曲げ、せん断)は木材が破壊するまで荷重をかけ続けなければなりませんが、ヤング係数の計測は木材を若干変形させる程度の荷重でよく、計測が簡便に行えます。変形性能(ヤング係数)と強度性能は比例することが分かっていますので、ヤング係数の高い木材は、すなわち強度の高い木材といえるのです。

強度の基準「5% 下限値」とは?
自然素材である木材は、その強度にバラツキがあって当然です。かといって、木材を使用した建物の安全性にバラツキがあっては困ります。そこで決められたルールが「5% 下限値」。これは、たとえば木材 100 本の強度を計測したとき、下から 5 番目に高い強度の木材をその母体の代表値とする考え方です。もし、「100本の平均値」を代表値にすると、実際には平均以下の木材が多数存在することになります。けれど、下から 5 番目の強度が代表値であれば、それより強度の低い木材はほぼ存在しないことになります。 DATA-1・3 で 5% と書かれたラインが5% 下限値を示したものです。
全国平均値の参考資料(DATA-2・4):「木材の強度等データおよび解説」(木構造振興)

梁材には「スギ」ではなく「ベイマツ」を選ぶべきだろうか?

優れた性能を持つやまなし県産材のスギですが、そうはいっても「梁材に使うなら性能の高いベイマツに限る」。そんなイメージをもっている人は少なくありません。性能の指標となる基準強度とヤング係数を比較すると、たしかに一般的にはスギよりベイマツのほうが勝ります(DATA-5)。ただし、同じヤング係数 E110 のスギとベイマツを比べると、今度はスギのほうが基準強度で勝ります(せん断性能以外、DATA-6)。スギは使い方次第で、ベイマツに勝るとも劣らない梁材になれるということです。

このデータは、仮に E110 のスギとベイマツに同じ荷重をかけ続けたとすると、基準強度の低いベイマツのほうが先に折れ曲がることを示しています。なお、木材はヤング係数を計測しないかぎり「無等級材」に分類されます。そのためやまなしのスギは、実際にはそれ以上の性能を有していたとしても一律に E70 と評価されてしまいます。すでに見たとおり、やまなしのスギは全体の 20% 近くが E110 ですので(26 頁参照)、使用時は数値を積極的に計測していく取り組みも重要になります。
出典:「木質構造設計基準・同解説」(日本建築学会)

「E ○○」とは?
E とはヤング係数を表す記号で、E のつぎに表示される数字が木のたわみにくさを段階的に表します。たとえば「E90」はヤング係数が7.8以上9.8kN/㎟未満のものをいいます。表示される性能は厳密なものではなく、ある程度上下のバラつきを許容しています。そのため、E90 といえども実際にはそれを下回る性能の材が混入する可能性があります。そこで設計時は、あらかじめたわみ制限などに余裕をもたせておくか、計測数値で 9.0 kN/㎟以上を確認するなどの対応が求められます。

JAS材とは?
木材のなかには「JAS材」と呼ばれるものがあります。これは一体どのようなものでしょうか。JAS材とは日本農林規格(JAS)の認定工場で所要の検査に合格した材をいいます。JAS材以外の材は、「無等級材」と総称されます。両者の違いは認定工場で性能検査を受けて、強度などの品質が保証・表示されているかどうか。現在、やまなしにある製材のJAS認定工場は南部町森林組合だけで、「目視等級区分」の認定を取得しています。

強度管理材とは?
無等級材のうち、ヤング係数、含水率、目視等級区分の3つを検査して一定の品質基準を満たしたものを「強度管理材」といいます(専門家や検査機関に検査の妥当性を評価してもらいます)。これは、JAS材の入手が困難な場合などに登場する材で、品質基準や監理時の検査数を上手に設定すれば、JAS材と同等の品質確保も可能です。

1. ヤング係数の計測。木口をハンマーで叩き、打撃音の固有振動数をFFTアナライザー(周波数解析器)で計測することにより数値を導きだす(打撃音法)。主に梁などの横架材となるスパン 2,730㎜以上の材を検査する
2. 含水率の計測。木材の両端部と中央部で、異なる 2 面を計 6 カ所計測し、その平均値を含水率とする。基本的にすべての材を検査する
3. 目視等級区分の検査。節、丸み、曲がり、貫通割れ、腐朽などの欠点を目視でチェック。基本的にすべての材を検査する。写真は「貫通割れ」の例。このような材は検査段階で除かれて出荷されない

木材は「せん断強度」が極端に低い。そこから、仕口・継手などを加工する際は「せん断破壊」が起きないように、端あき、縁あき、せん断面積の十分な確保が重要と分かる

部材の強度が繊維の方向によって大きく異なるのは、自然素材である木材ならではの特徴。同じ圧縮力でも「繊維方向」が 100 のとき「繊維と直角方向」は 30。約 1 / 3 に低下する
出典:「現場で役立つ建築用木材 木質材料の性能知識」(日本住宅・木材技術センター)

意外と知らない「強い」と「かたい」?

木材も鉄もコンクリートも、外部から部材を破壊しようとする力が働くと(外力)、それに抵抗する力が内部に働きます(応力)。このせめぎ合いの末、外力が勝利すると部材は破壊されます。ただし、破壊のされ方は一様ではありません。「圧縮」「引張」「曲げ」「せん断」という 4 つの破壊に分類されます。これら 4 つの破壊する力に対し、木材が「どれだけ壊れにくいか」を表すものが強度です。一般に「木が強い」というときの「強い」は、強度を表しています。
木材の強度は 4 種類の破壊に対してそれぞれ異なり、いちばん高いのは「曲げ」に対する強度です。いちばん低いのは「せん断」に対する強度で、その他の強度の 1 / 10 程度しかありません(DATA-A)。さらに木材の強度は、生物としての木材を構成する「繊維の方向」によっても異なるという特徴があります。これを、「木材強度の異方性」といいます(DATA-B)。
一方、木材が「どれだけ変形しにくいか」を表すのが剛性です。一般に「木がかたい」というときの「かたい」は、剛性(たわみにくさ)を表しています。その性能を示したものが「ヤング係数」で、ヤング係数の数値が高ければ木材は変形しにくく(たわみにくく)なります(DATA-C)。
強度と剛性。強さとかたさ。言葉から受けるイメージは似通っていますが、厳密には以上のような違いがあるのです。